理科の資質・能力を育成する授業デザインの基礎 和田一郎 著
理科の資質・能力を育成する授業デザインの基礎 和田一郎 著
本の詳細
著者メッセージ
我々は,VUCA(ブーカ)と呼ばれる時代に突入したといわれる。これは,Volatility(変動性),Uncertainty(不確実性),Complexity(複雑性),Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった言葉であり,変転の激しい予測困難な状況を意味する。現代の社会は,新型コロナウイルスの感染拡大や地域紛争,急激な発展を遂げている情報技術(IT)や革新的なバイオ技術の開発など,目まぐるしく変化の波が押し寄せている。
こうした予測困難な時代にあっても,その状況を的確に捉え,最適な意思決定を行うための知識や考え方の獲得が一層,重要になっている。このような状況において,理科教育が果たす役割は極めて大きいと考えられる。なぜなら,理科は従前から問題解決(problem solving)を重視してきたからである。自然事象を対象として,ある状況において様々な気付きの中から問題を見いだし,それを解決するための仮説を発想し,観察,実験の方法を立案して,検証していく。そうした問題解決の過程を通じて,自然事象に関する現在の理解を表す知識体系を学習すると同時に,その知識体系がどう生み出され,また継続的に拡張,洗練,改訂されていくことを学習する。子どもが,このような理科の問題解決を通じて身につける資質・能力は,正にVUCAの時代を生き抜くために不可欠な要素であり,これを教える教師は一層,重要な立場にあるといえる。
本書では,こうした時代も踏まえた理科の資質・能力を育むための授業をデザインするための基礎的な知識や考え方について,筆者の大学(大学院)での講義内容を中心に15回の講義形式でまとめた。本書の内容は,小学校教員を目指す方々を中心に,中学校や高等学校の理科教員を目指す方々,さらに現職教員にとっても理科の授業デザインの土台を捉える上では,有意味であると考えている。重要とされる理科の学習活動の中心である問題解決(中学校,高等学校では科学的探究)の本質的な意味や,その過程を子どもにとって意味あるものとして成り立たせるために,教師が有するべき視点や考え方について,理科教育学の理論を踏まえながら,その基礎的な部分を取り扱った。また,小学校の実践事例も取り入れながら,理論と実践の往還からなる説明を試みている。
このようなことから,本書は授業づくりのテクニックを扱うものにはなっていない。現代的な理科の教育目標を踏まえた上で,理科の学習活動としての問題解決の意味やその構成過程を中心に取り扱った。その際,問題解決の過程で子どもが稼働させている「思考」と対応付けた説明を試みることによって,問題解決の過程が子どもにとって意味あるものとして文脈化されるために必要な視点を明確にすることに努めた。これが本書の特徴である。ただし,基礎的な内容を取り扱うことに注力したとはいえ,必要に応じて少し深く入り込んだ説明部分もある。この点については,読者の判断で取捨選択して読み進めていただきたい。
はじめにより
発売日: 2025年4月1日
著者: 和田一郎
サイズ:B5
ページ:224ページ
ISBN:978‐4‐910911‐34-2
著者略歴:
和田一郎(わだ いちろう)
1970年生まれ
16年間,中学校や高等学校において教諭として勤務。
2009年3月東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了,博士(教育学)。
2010年4月北海道教育大学(釧路校)教育学部准教授として着任。その後,2012年4月横浜国立大学教育人間科学部准教授を経て,2016年4月より横浜国立大学教育学部教授として,現在に至る。
専門は,理科教育学。現在は,子どもの自己調整的な理科学習を促進する授業デザインを主な研究テーマとしている。
目次
目次
序章 理科授業デザインの基礎
1.理科授業をデザインする際に必要な視点
1-1 問題解決の文脈化
1-2 問題解決の文脈化のための視点
第1講 理科で育成を目指す資質・能力
1.現代的な資質・能力観
1-1 学力の三要素
1-2 資質・能力とコンピテンシー
1-3 理科で育成を目指す資質・能力
1-4 科学的能力
第2講 日本の理科教育の課題
2.子どもの理科に関する資質・能力の実態
2-1 全国学力・学習状況調査から見いだされる課題
2-2 全国学力・学習状況調査から見いだされる課題(質問紙)
第3講 子どもはいかに理科を学習しているのか
3.子どもの学習の姿
3-1 子どもは能動的な学習者
3-2 子どもの学習と概念変容
3-3 子どもの学習の社会的側面
第4講 子どもの思考・表現
4.理科学習における子どもの思考・表現
4―1 理科学習における子どもの思考の内実
4―2 科学的思考
4―3 思考から表現へ
4―4 イメージやモデルによる表現
第5講 理科の問題解決Ⅰ(問題解決の過程/気付き・疑問・問題の設定)
5.理科の問題解決の過程と構成要素
5-1 問題解決の過程と理科の見方・考え方
5-2 自然事象との出会いから気付き・疑問・問題の設定
第6講 理科の問題解決Ⅱ(予想・仮説・予測)
6.予想・仮説・予測
6-1 予想・仮説・予測の意味
6-2 仮説の構造
6-3 仮説の発想に関わる科学的思考
第7講 理科の問題解決Ⅲ(実験計画,観察・実験)
7.実験計画と観察・実験
7-1 実験計画
7-2 表とグラフ
7-3 観察,実験
第8講 理科の問題解決Ⅳ(結果の処理)
8.結果の処理
8-1 結果の処理に必要となる視点
8-2 実験誤差
第9講 理科の問題解決Ⅴ(考察,結論)
9.考察と結論
9-1 考察の意味と構造
9-2 結論
9-3 問題解決過程の分岐と循環の構造
第10講 主体的・対話的で深い学び
10.理科学習における主体的・対話的で深い学びの意味
10-1 主体的・対話的で深い学びの学習論からの解釈
10-2 主体的・対話的で深い学びを促す指導
第11講 理科の学習評価と指導
11.理科の学習評価と指導の意味
11―1 学習評価の観点
11―2 主体的に学習に取り組む態度
11―3 指導と評価の一体化に向けた見取りとしての評価
第12講 小学校3年の指導事例
12.小学校3年の問題解決活動と指導事例
12―1「光の性質」の問題解決
12―2 指導事例
「単元名:日光を集めよう」
第13講 小学校4年の指導事例
13 小学校4年の問題解決活動と指導事例
13―1「ものの体積と温度」の問題解決
13―2 指導事例
「単元名:ものの温度と体積」
第14講 小学校5年の指導事例
14 小学校5年の問題解決活動と指導事例
14ー1「物の溶け方」の問題解決
14―2 指導事例
「単元名:ものの溶け方」
第15講 小学校6年の指導事例
15 小学校6年の問題解決活動と指導事例
15―1「地層のでき方」の問題解決
15―2 指導事例
「単元名:大地のつくりと変化」
参考・引用文献
著者紹介